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site name:荒野(Heide)

owner:葦野笹音

URL:http://sa3nedraw.wix.com/heide

Heideの冒頭
 

 薄暗い部屋の中。2DKの中にはソファやテーブルなど、人として生きるために最低限必要なものだけが置かれた実にシンプルな作りになっていた。三人掛けの緑色のソファに、棺に入るように胸の前で指を組んで横になっている黒髪の女は口の端から涎を垂らしていた。また、部屋の隅に置かれた机を陣取っている白金色の髪の男はデスクトップ型の二台のPCの目まぐるしく変わる画面を前に、忙しなくマウスの左クリックを連打している。時々苛立たしげに舌打ちしたり貧乏揺すりする以外は実に静かなもので、不気味なくらいだった。

 そうしている内にどれくらいの時間が経っただろうか。女が三度目の寝返りを打とうとしたところで、机の上の携帯が小刻みに震え、着信が入ったことを知らせた。間髪入れず流れるような手つきで男は長方形で薄っぺらいそれを耳元へ押し付けた。

「はい、フェネック」

 それからああだとかそれで?と相槌を打ちながら絶えずマウスを動かしていた男だったが、じゃあその時間に女神が涙を流すところでと最終的な確認をすると通話を切った。履歴を消すのも忘れずに行うと携帯を片手に椅子から身体を起こした。古びたフローリングがぎしりと悲鳴を上げるのも気にとめず、三人掛けのソファーへと一直線に向かう。

「おい、仕事だ。起きろ」

 無機質な声色で男が頭上から声を掛けるものの、女は眉一つ顰めることなく寝息すら立てずに呼吸するだけだ。死んでいるようにも見える光景にすっかり慣れてしまった自分自身に小さくため息を落とした男は、面倒だなと呟きながら女の肩を強く揺さぶった。上下にガクガクと激しく頭を揺らし続けているにも関わらず眉を寄せてうーんと呻き声を上げるばかりで目を覚ます気配が一切感じられない女に、いい加減嫌気のさした男は女をソファーに投げ出した。

 自分の机に戻った男は包み紙ごと食べかけのホットドッグを鷲掴みすると女の鼻の辺りでチラつかせた。

 すると今まで微動だにしなかった女の鼻がホットドッグの匂いを嗅ぎつけヒクヒクと動いたかと思うと、瞳孔が開きそうなほどに目を見開いた。男は徒労からため息をつくと女の口に有無を言わせずホットドッグを突っ込んだ。ゴホゴホと咳き込みながらも目だけで訴えかける女の視線を流しながらテーブルに放り出された小型のノートパソコンを片手で操作しながら携帯の画面と照らし合わせる。

「そのまま食ってていいから黙って聞いてろ。うちの常連から依頼が入った。場所は女神が涙を流す建物、時間は半刻後。物の受け渡し先はそこで連絡。……すぐ出れるな?」

 もごもごと頬を膨らませながらもしっかりと頷く女に男はふん、と満更でもないように笑った。

 女は指についたケチャップを舌で舐めて胃袋に詰め込むと、Tシャツの上に白いパーカーを羽織り、腰まで垂らしていた髪を耳の下で一本に結わえて準備を整えた。男も首から紐をつけた小型ノートパソコンを下げて女を待っていた。二人は無言で頷くと2DKを後にした。

 駐輪場に無造作に停めてあった黒塗りの大型のバイクまで辿り着くと、女はハンドルに掛けているヘルメットの内一つを男へと投げ、一つを自分の顔にはめた。男が女の腰に手を回してしっかりと掴まったことを確認すると女はバイクを発進させ、徐々に加速していった。やがて廃墟の街並みに、二人は溶け込んでいった。男と女、情報屋と運び屋の一日が、今日も始まる。

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